ナルシシズム考 |
(ナルシシズムの概念)
エーリッヒ・フロム『破壊』(紀伊国屋書店)P318~
ナルシシズムは、次のような状態の体験として記述されうる。
ナルシシズム的人物には、ただその人間自身、彼のからだ、彼の要求、彼の感情、彼の思考、彼の財産、彼に関係するすべての物やすべての人のみが十全に現実のものとして体験される。
そして反対に、彼の一部でもなく、彼の要求の対象でもないすべての人やすべての物は興味も引かず、十全には現実のものでなく、知的認識によってのみ知覚されるが、感情的には重さも色もないものなのである。
人間は、彼がナルシシズム的であるその程度に応じて、二重の知覚基準を持っている。
彼自身と彼に関係のあるもののみが意味を持ち、そのほかの世界は多かれ少なかれ重さも色もないのであって、この二重の基準ゆえにナルシシズム的人物は、判断力にははなはだしい欠陥があり、客観性の能力を欠いている。