ユングは今日の絶望をすでに予見していた |
政治的情勢や、悪魔的とまではいわないにしろ、おそろしい科学の勝利の結果として、われわれはひそかなおそれと、暗い予感におののかされている。
しかし、われわれはそこから逃れる道を知らない。
そして、今や問題は長く忘れさられていた人間の魂の問題であるとの結論を下している人はほとんどいないのである。
(ユング自伝2 P182)
河合隼雄先生もこの部分を引用し、こう続けています。
ユングがおそろしい科学の勝利の結果に対する暗い予感について語っても、当時は多くの人が耳を貸そうとはしなかった。
しかし、今では公害問題などを契機として、科学万能主義に対する反省は一般にひろまりつつある。
ここでユングは、問題は「人間の魂」のことであると確言する。
……現代という時代は魂を抑圧している。
(ユング「分析心理学」の日本語版序)
東日本大震災を機に浮き彫りとなった政治の無力、信念の欠如した小人政治家たちによる不毛な権力闘争、真実を伝えないメディア(このことは今回骨身に沁みて思い知ったことでした)を通して伝えられるこうした政治の情勢に直面し、もはや政治に対する信頼の回復は絶望的にすら思えます。
そして「想定外」の原発事故によって、これまで最先端の科学技術によって支えられていると信じ込まされていた安全神話はもろくも崩れ去りました。
いまだに収束の見通しすらたたない放射能による汚染は、修復不能とも思われる環境破壊を引き起こし、われわれはその恐怖と不安から逃れる道を知りません。
原発事故は技術の問題というより、たぶん、壊滅的な事故発生の可能性を「想定」しなければならなかった人間の側の問題です。
その問題というのは、ユングが述べているように「人間の魂」の問題なのです。
河合隼雄先生が指摘する「科学万能主義に対する反省」が至らなかったことが、いま改めて悔やまれます。
今日のこの絶望を、ユングがはるか以前に予見していたことには驚かざるを得ません。
いまユング自伝を読みながら、人間の魂の問題についてこれから真剣に考えていこうと思っているところです。